カエサルを撃て (中公文庫)



カエサルを撃て (中公文庫)
カエサルを撃て (中公文庫)

ジャンル:歴史,日本史,西洋史,世界史
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ガリア人側に感情移入

「ガリア戦記」を被征服民であるガリア人側に大きく感情移入して描いた長編小説である。英雄として語られることが多いカエサルが、体面を気にする卑小な中年男として描かれているのは新鮮である。リーダーシップや実行力がもてはやされる風潮があるが、独裁者の素顔は案外そのようなものかもしれない。
共和制ローマは土木国家と位置付けられている。共和制は有力者が工事を実施し、それにより多くの市民が技術と職を得、恩恵を受けた市民が選挙で有力者やその推薦する者に投票するシステムで成り立っている。これは土建国家と揶揄される日本政治を想起させる。近時は公共事業への批判が強くなっているが、ローマや戦後日本に経済的繁栄をもたらしたのがこのシステムならば、全否定すべきでもないかもしれない。新生銀行がリスクを無視して積極出店した「そごう」を潰し、ゼネコンのハザマは救済したのも理由のあることだろう。


面白い、しかし下品?

「ガリア戦記」や塩野七生さんの「ローマ人の物語」から、英雄カエサルの鮮やかな戦略・戦術のイメージしかありませんでしたが、本作はガリアの英雄ウェルキンゲトリクスの視点から書かれていて、戦況をウェルキンゲトリクスとカエサルの内面の変化に結び付けた辺りに著者のセンスを感じました。ただ場面が切り替わるごとに性描写を組み込む必要性は無かったと思います。
佐藤賢一版ガリア戦記。

 勝者であるカエサル側から見たのが、ガリア戦記だが当然そこには勝者贔屓の書風になる。かといって、敗者であるウェルキンゲトリクスからみれば判官贔屓になりかねない。難しい所だ。
 しかし、佐藤氏はなるべく中立、と言うよりは目立つカエサルよりもその宿敵であるウェルキンゲトリクスの視点からこのガリア戦争を描こうとしている。そして、それまで英雄として闊達な人物として描かれるカエサルを、老齢な政治家という視点で少しずつ我々が知る英雄カエサルへと近づいていくのが分かる。
 だからこそ、最後のルビコン川を渡ろうとするシーンが否応なく印象が強くなるのだ。
 まさに、カエサルとウェルキンゲトリクスという二人の英雄を描いた佐藤賢一版ガリア戦記と言えるだろう。
「撃つ」ことから始まる 中年再生劇!?

 衝撃的な題名だ。一体どういう内容だろうと惹かれた。そして、最初の方に用意された(この作者はよくこういう性描写をして読者にサービスするようだが)生々しいシーンに驚かされた。そして、高校時代に習った、「ゲルマン民族の大移動」とか、「ガリア戦記」とか、「カエサル」という単語が、砂煙を伴った、汗臭い、野望と欲望と嫉妬と怒りに満ちた感情に溶け込んでいくように感じられた。
 そう、歴史の教科書の中の出来事は事実と真実の両側面があり、何を真実にするかは、受け取る側の問題だということに、今更ながら驚かされる歴史小説の面白さ、手に汗握る展開、佐藤賢一の面目躍如たる世界が繰り広げられている。
 輝かしい野生が、その身を犠牲にして、別の生き物の活力の源となるべく、二人のヒーローの生き様は対照的である。そして、ヒロイン達もその個性に沿うべく用意されている。一方の英雄が崩れ落ちていく時、乙女は生き抜く女性として、哀しいまでにしたたかにならざるを得ないのであり、貞淑な妻は過去を失い刹那に支配される存在となる。
 そして、主人公は主人公たるべく、犠牲(にえ)を踏み砕き、プライドを奮い立たせ、人生の後半戦を自分の「生き方の質」を高めるべく、再構築していく。中年応援歌ではないが、佐藤の小説にはこの落ちが多い。だが、個人的には勇気付けられている。
 
 
こういうのもありかな

氏の作品群においては、出来という点では中ぐらいかやや下ぐらい
ではないでしょうか。
作中、女性を陵辱する場面が多いのに辟易したのと、ヴェルチンジ
ェトリクスが、共感をよせることが困難なキャラクターとして作ら
れていたため、カエサル改心後のクライマックスまでの展開がイマ
イチのれませんでした。

けど、すくなくともこれ読んで、もう一度「ガリア戦記」を読む気に
させてくれたので星3つ。



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